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子どもたちに求められる“3つの間” 地域との連携から見えた可能性とは?
株式会社テンポイノベーションが2019年よりスタートした「お店のこども食堂(みせしょく)」の活動。自社が管理する物件に地域の親子を迎え入れ、“店舗”という空間を利用した食事提供を行っている。この活動を続ける中では、地域の有識者との繋がりも欠かせない。今回は東京都豊島区において「みせしょくチケット」を取り組むきっかけとなった、特定非営利活動法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(以下、WAKUWAKU)の理事長 栗林知絵子氏と、「お店のこども食堂」のプロジェクトリーダーを務める岩﨑氏にインタビューを行った。
WAKUWAKUとの接点、共創の取り組み
―最初に少し、WAKUWAKUのことについて伺います。この団体を立ち上げた経緯を教えていただけますか?
栗林:今でこそ私たちは「食」に関わる支援が中心ですが、実は学習支援の方が先に始めた活動でした。地域の子どもたちに無料で勉強を教える取り組みです。その時から「WAKUWAKU」という称号を使っていましたが、まさかこんなに続くとは思ってもいませんでしたね(笑)
活動を続けて様々な家庭環境に触れる中で、私自身が孤食の問題に気づかされたこと、それからWAKUWAKUのメンバーの一人が大田区で行われていた子ども食堂の取り組みを見てきて「自分たちもやりたい」と提案してくれたこと、その2つがきっかけで私たちも子ども食堂という取り組みを始めることになりました。
―そんなWAKUWAKUさんとテンポイノベーションが出会ったのは、何がきっかけだったのでしょうか?
岩﨑:当社がCSR活動の一環として「お店のこども食堂」という活動を始めたいとなった時、まず管理物件の多い自治体を中心に相談へ伺いました。それで豊島区へ伺ったところ「としま子ども食堂ネットワーク(※)」を紹介していただいて。早速会議に参加させていただくと、そちらに栗林さんがいらっしゃったというご縁です。
(※)子ども食堂を運営している方々、開設を考えている方々が情報共有をしたり、学び合ったりする場。豊島区役所子ども若者課が窓口となり、不定期で情報交換を行っている。
―そこから豊島区の「みせしょくチケット」が始まったと聞いています。
栗林:最初にお会いした時は挨拶程度だったのですが、しばらくして岩﨑さんから「みせしょくチケット」に関するご相談をいただいて。それで思いついたのが、ひとり親家庭への食糧支援事業として実施している「ライス!ナイス!プロジェクト」の場の活用でした。対象となるご家庭に食糧をお配りするのですが、その時に「みせしょく」のチケットも入れることができれば、本当に来ていただきたい方にも利用してもらえるなと思ったのです。
岩﨑:CSR活動とは言え、企業利益を使った活動だからこそ、必要としているご家庭に確実に届けたいという思いがありました。「ライス!ナイス!プロジェクト」にいらっしゃる方々にチケットをお渡しできれば、「みせしょく」の存在に気づいていただくことができます。実際にこのスタイルを採用して、2021年には豊島区での「みせしょくチケット」を実施することができました。19ものお店さんが手を挙げてくださり、実際に「みせしょく」を利用してくださった方も435人。さらにこの取り組みは2022年に大田区で、2023年は品川区で…と実施地区を広げることができていて、私たちも手応えを感じています。
豊島区ならではのネットワークを活用して
―豊島区は他の地域に比べて、親子支援の取り組みが活発に感じられます。
岩﨑:一つ大きな原動力として挙げられるのが、「としまこども団」の存在です。ここでは豊島区で活動する企業や団体が集い、情報交換やリソースの共有を行っています。そもそも私たちのようにとびきり熱く(笑)活動できる人がどの組織にいるとは限りません。だからこそ、「交流」が必要だと考えているのです。参加企業としてはサンシャインシティさんや良品計画さんもいらっしゃって、“豊島区にあって良かった”と思える企業を一緒にめざしています。
栗林:「としまこども団」の方々はWAKUWAKUの活動にも非常に協力的です。良品計画さんは社員の非常用物品として確保した食糧の無償提供や、オフィスの一部をパントリー会場として貸してくださったこともありました。こうした取り組みには、豊島区に住む一人としても感謝しています。
一方で「豊島区だからできるよね」では突き詰めると意味がないと思っていて。困りごとを抱えた方々は全国にいるわけですから、今後は各々の環境やリソースに応じた“コーディネート”のできる人が求められているのではないでしょうか。宮崎県宮崎市では既にそういった取り組みがあるそうで、「こども食堂コーディネーター」と呼ばれる方々が各地で食堂開設のお手伝いをしていると聞きます。
昨今の子どもたちに感じる課題と未来に向けて
―少し話題を変えますが、昨今の子どもたちあるいは親子関係について、どのような課題を感じられますか?
栗林:居場所が無いことが何よりもの課題に感じています。極論を言えば、支援じゃなくて居場所が求められているのではないかなと。
よく言われることですが、子どもには3つの間が必要と言われていて、それは「仲間」「時間」「空間」です。これらが全て揃って、初めて健やかな毎日が送れると考えています。ですが昨今の世の中を見てみると、親も子も小さい頃から競争の世界に晒されていて、本来必要なものを絡め取られているような印象です。そういった人たちを一人で困らせるのではなく、第三者が「空間」を提供すること、そこで「仲間」と出会い語らい、ホッと息をつく「時間」を創出すること。先ほどの話と重なりますが、こうした場を創ることのできる“コーディネーター”が必要ですよね。WAKUWAKUも今後はそういった立ち位置を取っていけるように模索しているところです。
岩﨑:3つの間という話には私も深く共感しました。スポット的な支援であれば一企業にも可能かもしれませんが、本当に親子が求めているのは時間であり空間であるからこそ、地域の方々と連携した継続的なアクションが求められているように感じます。
幸いなのは、子どもの活動をしている人同士って考えが共鳴しやすいというか、すぐ手を取り合える関係性にあることです。私たち以外にもこうした活動に積極的な企業・団体・個人がいらっしゃるからこそ、横のつながりを大事に、“子どものために”を合言葉として今後もやり続けたいと思っています。
―活動をされる上で心掛けていることはありますか?
栗林:決して地域や親子のことをわかりきった気にならず、“今”の問題・“今”のニーズにフォーカスすることです。世の中の移り変わりも早いですが、子どものニーズだってものの1年で変わります。
―目まぐるしい日々かと思いますが、お二方からは並々ならぬバイタリティを感じます。
岩﨑:私だけでなく、社内には他にも協力的な人たちがたくさんいます。当然企業としては“儲け”が求められるのですが、そこへ執着しすぎず、社会に私たちがある意義というのを今後も追求していきたいです。豊島区で言えば、来年また「みせしょくチケット」の取り組みを実施することが決定しています。まずはお店さんにお声かけからですね!
栗林:岩﨑さんもそうかもしれませんが、活動を続けていく中では失敗もあります。私だって落ち込むこともありますよ(笑) ですが、少し経つと「失敗があるからこそ、やりがいがあるんじゃん!簡単にできたらつまらない!」って思い直すことができるんです。今後も1mmであれ現状を打破する取り組みができればと考えています。
認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク
https://toshimawakuwaku.com/
くりばやし・ちえこ 1966年、新潟県生まれ。東京都豊島区在住。
2004年からプレーパークの運営に携わり、11年に「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」を設立。子ども食堂をはじめ、無料学習塾、宿泊施設「WAKUWAKUホーム」など子どもの居場所に関する様々な活動を行っている。子ども政策の助言・提言も行うなど知識も幅広く、2020年には天皇皇后両陛下へ子ども支援の現状についてご説明を行った。